第2回(2001.09.28)
次世代内航海運懇談会議事概要


議事

(1) 関係者からの意見聴取
(2) 「21世紀型内航海運のあり方」について
(3) その他

議事経過

 
前回に引き続き関係者からの意見聴取を行った後、事務局より「21世紀型内航海運のあり方」に関する資料について説明し、その後、委員等による議論を行った。

議事概要

 ・経済的規制は緩和、社会的規制は適切な運用を行うことが規制緩和の大きな流れであるが、社会的規制に係る必要なコストの存在と経済的規制の緩和による競争の促進との関係を整理することが必要。
 ・安全・環境に係る社会的規制と効率的事業運営とは、一概にトレードオフの関係にあるとは思えない。社会的規制は、事業運営の前提となるべきルールであり、これにコストがかかることは否定しないが、こうしたコストの問題等の隘路を打開するのが「技術革新」である。したがって、技術革新の進展に応じて社会的規制の見直しを行っていくことが必要であり、そのための規制の見直しを行う仕組みが重要。
 ・経済的規制の緩和の一方で、社会的規制は適切・厳格に行うべきであり、ひれに伴うコストは当然甘受すべき。ただし、社会的規制については時代の流れ、技術革新の状況等に応じて常に見直すことが必要であり、これら社会的規制がその運用次第で参入規制的に機能することのないよう留意すべき。
 ・経済的規制を緩和し競争的市場環境とすることで、社会的規制に係るコストについても競争的原理が及び、その低減が可能。また、健全かつ適切な市場の運用は、単に規制を緩和することのみで達成されるわけではなく、市場インフラを適切に整備・運営していくことが重要。なお、こうした市場インフラの整備・運営は、市場活性化のために必要というだけでなく、安定した輸送環境を確保することにもなる。
 ・ビジョン策定に当たっては、暫定措置事業の修了後内航海運がどうあるべきか等長期的な展望に立った上で検討することが必要。今回の資料により内航海運の実状がこれまでと異なる視点から数字で明確に示され、行政の視点を変える必要があることは理解。ただし、生業的オーナーの今後の取扱いについて、その方向性を示すことが必要。
 ・革新的な輸送サービスの出現を評価することが重要。行政がこうしたサービスの創出を後押しするような制度の構築が必要。
 ・今後の内航海運のあり方は、トラック等も含めより一層効率良く、一貫輸送形態で輸送できる事業環境の形成を図ることが必要。また、最低限の安全水準や環境を維持する仕組みは必要。


関係者からの意見


(運輸施設整備事業団・全日本海員組合・日本旅客船協会)


運輸施設整備事業団理事長 相原 力氏


1.運輸施設整備事業団の沿革
 昭和34年  6月=老朽旅客船の代替建造業務を行う「国内旅客船公団」設立
 昭和36年  4月=貨物船の代替建造業務を追加、「特定船舶整備公団」と改称
 昭和41年12月=「船舶整備公団」と改称
 平成  9年10月=特殊法人鉄道整備基金と統合「運輸施設整備事業団」発足

2.事業団の船舶共有建造業務
〈仕組み
 海上運送事業者と事業団が費用を分担して船舶の建造を共同発注し、完成した船舶は費用の分担割合に応じて一定期間(おおむね耐用年数)共有。その間事業者は船舶を使用収益し、事業団持分について使用料を支払う。共有期間満了時に事業団持分を残存簿価で事業者が買い取ることにより、事業者の100%所有船に。
〈背景〉
 わが国の国内海運業は大半が中小企業者(内航海運は99.4%)。多くの事業者は船舶以外の資産がなく、担保力が不足。また、初期投資額が多額であり、投下資本の回収に長期間が必要。船舶建造のための技術力も乏しい。民間の金融機関では対応に限界があり、必要な船舶建造が進まない。
〈特徴〉
 @内航海運政策の目的実現のため、国の特別の関与により実施。
 A事業団が共有船の持分を直接所有するため、担保は最少。
 B長期プライムレートを基準とする低利・固定金利で耐用年数に応じた長期の返済。
 C事業団の船として建造するため、事業団から技術支援を受けることが可能。

3.共有建造実績
 内航船 2,606隻(2,622,303総トン)
 近海船   73隻( 260,703総トン)
 旅客船  927隻( 809,578総トン)
 国内の船舶建造シェアーの半分以上が、事業団との共有船。
 平成13年3月末日現在、事業団の保有総トン数は、貨物船が1,079,921総トン、旅客船が471,059総トン。

4.今後の内航海運のあり方について(船舶建造の観点から)
〈基本認識〉

 経済の効率化と環境問題への適切な対応が強く求められている今日、環境負荷が小さく、輸送効率に優れた特性を有する内航海運が、物流の大動脈として今後の我が国経済社会の発展に果たすべき役割は、極めて大きい。また、内航海運がその期待される役割を十分に果たすためには、必要とされる船舶が円滑に建造、提供されることが不可欠。
 次世代内航海運ビジョンの検討に当たっては、海運政策の実現に必要な船舶の建造を重要な課題の一つとしてとらえるとともに、長期的な視点のみならず中期的な視点からのアプローチも必要。
〈検討課題〉
@不経済船・老朽船問題
 平成12年度末現在、内航船の約77%(隻数ベース)が老朽・不経済船。
 安全面(機器の損傷、劣化等)、効率面(燃費速力、荷役効率等)、環境面(CO2等 の排ガス、各種環境規制への対応等)における問題を改善するためには、適時にリプレースが可能となる仕組みが必要。
A政策課題の受け皿となる船舶の供給
 船舶は、港湾施設とともに内航海運の重要なインフラ。低環境負荷型の輸送モード、物流の効率化、モーダルシフトの受け皿となる内航海運として、受け皿となりうる船舶の供給が円滑に行える仕組みが必要。
B効率化・高度化された船舶の建造
 新たな技術を活用し、物流の効率化・高度化に資する船舶の建造が誘導されるような仕組みが必要。また、労働力(船員)問題に対応した、居住環境、労働環境に配慮した船舶の建造が推奨されることが必要。
C実態を踏まえた施策
 将来的なあるべき姿の如何にかかわらず、当面は、内航海運事業者の多くが、現に中小零細事業者であるという実態を踏まえた施策が必要。
D荷主・オペレーターの 役割
 キャピタルゲインを目的とする船舶建造は別として、実需に見合った船舶建造が推進されるべきであり、建造時のみならず運航に当たっても、実質的なユーザーである荷主なり元請オペレーターによる当該船舶に対する積極的な関与が必要。


全日本海員組合内航局長 馬越洋造氏

T 21世紀型内航海運のあり方

1.わが国経済活動・国民生活における内航海運の役割
 内航海運は国内輸送の4割強を占めるとともに、日本経済を支える基幹産業の基礎物資 輸送の約8割を担っている。21世紀には内航海運をわが国の環境保全への取り組みには不 可欠な輸送手段として位置付け、これに応えられる産業として健全な発展を遂げていくことを期待する。
2.物流に対する経済的・社会的要請
 従来、内航海運は主として港から港への輸送を担っていたが、今後は海陸一貫輸送体制の確立が求められる。そのための物流構造全体の徹底した見直しを行うとともに基幹航路における定期運航体制の早期確立を図るべきである。このことは、21世紀を担う海運技術者の育成にも欠かせない要件である。
3.21世紀型内航海運のあり方
 輸送手段としてのコスト競争力の維持向上は否定しないが、安全の確保は絶対要件として位置付けられるべきである。残念ながら内航海運の現状は、安全運航をも担保できないほどの低運賃・低用船料で仕切られている。安全は全てに優先するとの共通認識の中で21世紀を担う内航海運のあるべき姿を模索すべきである。

U 今後の内航海運行政が取り組むべき課題

1.健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備
(1)事業展開の多様化、新規参入等競争の促進
 単なる船舶運航事業者から物流事業者への転換・脱皮を促進すべきであり、効率かつ安全運航を基本に、海陸一貫輸送体制確立に向けた環境整備に行政と事業者とが連携して着手すべきである。
(2)市場の透明性の確保
 内航海運はとくにマーケットの不透明さが言われているが、荷主の支払う運賃と船主が受け取る運賃との間には大きな乖離があり、この間には安全運航に必要なコストさえ収受できないケースが多々見られる。経済社会におけるコスト競争は、否定はしないが、安全のために必要なコストについては、行政の責任として明確にすべきである。
(3)健全な市場のルールづくり
 これまでの行政は、適正船腹量の策定に代表されるように安定輸送を主軸としてきた。船腹需給調整が廃止された今、行政としては安全・雇用への関与を強化し、これらに関し適正なルールを定め、その実効性を担保することにより健全な競争の基盤とすべきである。2.より効率的で安全かつ環境にやさしい輸送サービスの提供支援
(1)高度で革新的な輸送サービスの提供
 内航業界では、めざましい発展・進捗を遂げている技術革新に対応できる人材育成の立ち遅れが指摘されている。これまでのように外航海運や遠洋漁業分野で培った海技ノウハウをもった船員が内航分野で新たに就業することは今後期待できず、しかも平成11年30,000人を数えた内航船員数は年率5%にも及ぶ減少率で推移する中で高齢化も進んでいるこ とから、若年内航船員養成等の対策を強化していく必要がある。
(2)良質かつ責任ある輸送サービスの提供
 荷主が求める安全かつ効率的な輸送を支えるのは厳しい現場で昼夜を問わず働く内航船員であることを忘れてはならない。国土交通省海事局も平成13年版海事レポートのなかで「船舶の運航の技能と経験を有する船員は、全ての海事産業のヒューマンインフラであり、優良な船員を安定的に確保することは産業の発展に不可欠な要素である」とし、さらに、「優良な船員を安定的に確保するためには、教育・育成及び雇用対策と並んで、魅力ある職業とするための基礎として安全かつ適正な労働環境の整備を図らなければならない」との認識を示している。同様に、本年四月に出されたEC委員会のコミュニケも、欧州連合船員の不足は安全と環境、海事産業の競争力に重大な結果をもたらすと警告し、良質な船員への長期的投資(教育訓練等)、労働条件の向上等に関する勧告をしている。
(3)輸送コストの低減および安全・環境対策の向上
 輸送モードはそれぞれ特色があり、これまでそれぞれが持つ特色を生かしつつすみわけを行ってきた。今後は陸上輸送モードの利点を海上輸送に取り込む努力が求められる。シャーシー輸送などは極めて有効な手段と言える。
 安全と環境問題に関連しては、内航一般貨物船の海難事故のうち8割が衝突・乗揚であ り、発生時間帯は夜間に集中している。さらに海難時の船橋一人当直の割合が7割を超え る。
 小型船(700総トン未満)であっても2,400K/L(ドラム缶12,000本)もの油を輸送している実情に鑑み、夜間の一人当直を可としている現行の航海当直基準を早急に見直すべきである。また、船舶職員の乗り組み基準についても有資格者による当直体制が組めない現行の沿海区域の職員配乗基準は早急に見直すべきである。無免許でトラックの運転を認めているとの同じである。
 あわせて瀬戸内海を中心とする狭水道や船舶輻輳海域では航行の安全を確保するために漁船やプレジャーボートとの航行(操業)分離を基本とした貨物専用シーレーンの設定を強く要望したい。
(4)循環型社会実現のための基盤整備
 環境問題は、21世紀の最大のテーマと言われている。リサイクル型の産業構造への転換には物流コストで寄与できる内航海運のかかわりは不可欠である。効率的な輸送体制の確立を期待する。
(5)物流システム全体の効率性の向上
 21世紀の内航海運は石油製品・原材料に定期輸送に従事する専用船分野と製品や雑貨輸送には従来型のポートツーポートでなく荷主のニーズにあったドアツードア輸送に対応できる構造改革への取り組みが必要である。


日本旅客船協会副会長 入谷泰生氏


T 21世紀型内航海運のあり方

1.我が国経済活動・国民生活における内航海運の役割
 内航海運は、大量の貨物を遠くに安く運ぶという観点からは最も優れた輸送手段で、産業基礎資材の基幹的な輸送機関である。同時にRORO近代化船においては、雑貨輸送の面でも目立った躍進をしている。
2.物流に対する経済的・社会的要請
 イ 国際競争力のある物流市場を構築すること。
 ロ 環境問題の深刻化に対応するため、モーダルシフトの推進、循環型社会の構築に努めること。
3.21世紀型内航海運のあり方
 周辺海域のグローバル化、ボーダレス化にあって今後の労務環境を考えた場合、国際的な競争力が求められる。その中で如何に成り立っていくかを考えねばならない。

U 今後の内航海運行政が取り組むべき課題

1.健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備
 @参入規制をなくし、競争を促進させるためにはできるだけ入口を広くし、逆に悪質な違反に対しては罰則を厳しくするなど、実態に則した規制をすべき。
 A物流業界は重層的である。そのことが、荷主からみて割高感を与えている。
 B自由な事業活動は即、供給過剰、事業者の淘汰、寡占化につながることを考えるとその弊害に対する対策も必要である。
 C運輸施設整備事業団の共有建造方式はその機能を充分整備すべきである。
2.より効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの提供の支援
 @時代にそぐわなくなり合理性を欠いた規制を次のとおり見直すべきである。
 イ 現在の技術水準に照らし、安全性の確保されている機材に係る検査等の制度を見直すこと。
 ロ 過剰と思われる安全規制を見直すこと。
 ハ 現在の船舶の堪航性、通信能力等の性能に照らして、航行区域、設備要件を見直すこと。
 ニ 現在の雇用状況の実態に照らして、船員の雇用に係る規制を見直すこと。
 なお、直接今回検討のテーマではないが、旅客船なるが故の規制で過剰なもの等の見直しも必要である。
 Aモーダルシフトを推進するためには、陸上での規制の強化(安全、環境)また、海運利用につながるインフラ整備が必要。
 B情報公開と規制緩和の流れを考えると通達の見直し整理が必要ではないか。


21世紀型内航海運のあり方について(事務局案)



1.我が国経済活動・国民生活における内航海運の役割と現状

(1) 国内物流の4割を担う基幹的輸送モード

 @ 内航海運は、四方を海に囲まれた我が国の地理的条件、その大量輸送特性等から、従来より我が国の国内物流を担う中心的な輸送機関としてその役割を果たしてきている(平成11年度輸送機関別輸送シェアは、41%〈トンキロベース〉)。

 A 特に鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎資材の分野においては、概ねその8割が内航海運により輸送されており、内航海運は我が国経済活動及び国民生活の基盤を支える基幹的輸送モードである。

(2) モーダルシフト等環境負荷の低減への寄与

 @ 内航海運は、単位当たりの二酸化炭素排出量が営業用普通トラックと比較して5分の1であるとともに、輸送効率も高く、環境保全の面で優れた輸送機関である。

 A このため、本来自動車による輸送が主体の雑貨輸送の分野を中心に、RORO船、フェリー、コンテナ船によるモーダルシフトを進めてきているが、内航輸送貨物に占める雑貨の割合は2割、モーダルシフト対象雑貨輸送における内航海運のシェアは16%であり、今後、更なるモーダルシフトの推進が求められる。

(3) 荷主を頂点とするピラミッド型の市場構造

 @ 内航海運市場は、その大宗貨物が鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資であり、大量かつ特定オペレーターの元請運送契約を結び、その他のオペレーター及びオーナーは元請のオペレーターの傘下で事業活動を営む、いわゆるピラミッド型の構造となっている。

 A こうしたピラミッド型の市場構造は、安定輸送の確保やオペレーターの経営安定等に寄与している面がある一方で、内航海運市場の閉鎖性を高め、新規参入、規模拡大等事業意欲の旺盛な事業者の多様な事業展開による市場の活性化や競争の促進の障害となっている面がある。

 B 加えて、内航海運の輸送特性により、輸送需要の変動に対し供給面での機動性を欠くことから、船腹の需給ギャップが生じやすく、運賃・用船料は市況の影響を受けやすい構造となっている。

2.内航海運を巡る様々な環境変化

(1) より競争的市場構造への転換

 @ 内航海運については、従来より、経営基盤の脆弱な中小零細事業者が大多数を占めるとともに、船腹需給ギャップが生じやすい市場構造であることから、いわゆる中小零細性の解消のための構造改善対策に取り組んできた。
 具体的施策としては、以下のとおり。

 ・スクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業(以下「船調事業」という。)の実施(昭和41年〜平成10年)
 ・内航海運業への参入を登録制から許可制に規制強化等(昭和41年〜)

 A こうした取り組みは、事業者数の大幅な減少(許可事業者については10,941〈S41〉→3,755〈H12〉)や船舶の大型化(許可船舶については426総トン〈S46〉→740総トン 〈H12〉)にみられるように、かつて小規模オペレーターの乱立による過当競争等が懸念された内航海運業における業界秩序の安定、船舶の近代化等の面で一定の寄与があった一方で、自由な新規参入や規模拡大の障害となり、競争制限的な市場構造が長期にわたって温存され、かえって内航海運業界の活性化や中小零細性の解消の支障となってきた面がある。

 B このため、船調事業については、内航海運の活性化を図るため、平成10年5月にこれ を解消し、内航海運暫定措置事業(以下「暫定事業」という。)を導入した。これまでの暫定事業の実施の結果、貨物船等の船腹需給の適正化が図られる等、内航海運の市場環境の整備の点で一定の成果がみられている。

 C 今後の内航海運市場は、暫定事業の進展に併せて、事業意欲のある事業者の事業展開の多様化・円滑化等が促進されることから、市場原理と自己責任の考え方の下、より競争的市場構造への転換を進めていくことが重要である。

(2) 物流効率化の要請の高まり

 @ バブル経済の崩壊以降の我が国経済の停滞の長期化、経済のグローバル化の進展に伴う企業の国際的競争の激化等を受けて、内航海運の主要貨物である鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資の製造企業においても、近年、合併や事業提携による事業再編の動きが活発化している。

 A こうした中で、これら企業では交錯輸送の削減等物流効率化を進めてきているが、今後、産業基礎物資の輸送の大半を担う内航海運においても、我が国経済の活性化や産業の競争力の向上の観点から、より質の高い輸送サービスを出来る限り低コストで提供していくことが求められる。
 なお、「新総合物流施策大綱(平成13年7月閣議決定。以下「新大綱」という。)にお いても、高度かつ全体効率的な物流士システムの構築の観点から、物流分野における船舶の大型化・高速化などによる効率化を進めるとしているところである。

(3) 環境保全のための取り組みの強化

 @ 平成9年12月の気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議で採択された「京都議定書」において、我が国ついては、1990年の水準より6%の二酸化炭素の削減が義務 付けられている等、地球的規模での環境保全の取り組みが急務となってきている。
 とりわけ、自動車に比べて環境負荷が小さい内航海運の輸送特性に鑑み、自動車から内航海運へのモーダルシフトを推進することが重要であり、新大綱においても、平成22(2010)年までにモーダルシフト化率を50%を超える水準とすることを目指すされているところである。

 A 内航海運のモーダルシフトについては、従来よりRORO船やコンテナ船の建造支援等の取り組みが進められてきたところであるが、今後更にモーダルシフトを効果的に推進していくためには、経済性に優れ環境負荷の小さな次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発を行い、21世紀型内航海運の中核船として広く普及を進める等の取り組みの強化が求められる。

 また、今後の循環型社会実現の観点からは、広域リサイクル施設等の立地に対応した港湾施設等の整備や、内航海運の活用を含めた効率的な静脈物流システムの具体化の取り組みも求められる。

(4) IT化の進展への対応

 @ 近年の情報通信技術(IT)の著しい発達に対応して、物流分野においては、物流EDIの導入、サプライチェーンマネジメントの活用等ITを活用した物流の情報化が進展している。

 A 内航海運の分野においても、主にオペレーター事業者において、ITを活用して使用船舶の動静の把握、効率的な配船等を管理・運用するシステムの構築が図られてきている。

 B 今後の内航海運におけるIT化は、現在、国土交通省において取り組んでいる「高度船舶安全管理システム」のように、物流の情報化だけでなく、船舶の安全情報の把握・管理の向上等の分野まで進展していくことが予想される。
 こうしたIT化を通じた船舶の安全管理の高度化・効率化を促進する観点からは、例えば、近年設立の動きがみられる船舶管理会社の普及に取り組んでいくことが求められる。

(5) 船員問題への対応

 @ 内航船員数(旅客船を除く。)は、平成11年で30,635人と、過去10年間で31.3%の減少となっている。その年齢構成も、40歳以上の船員が全体の73%を占める(平成11年)一方で、20歳代及び30歳代の船員は合わせて26%という逆ピラミッド型となっており、将来的な船員不足が懸念される。

 A 加えて、物流効率化の進展等に伴い、乗り組み人員の削減、船員一人当たりのワークロードの増加等船員の労働環境も厳しいものとなってきており、内航海運のヒューマンインフラである優良な船員を安定的に確保する観点からは、教育・育成及び雇用対策とともに労働環境の適切な改善に取り組んでいくことも求められる。

3.21世紀型内航海運のあり方

(1) 基本的考え方
 21世紀型内航海運のあり方に係る基本的考え方は、以下のとおり整理するべきではないか。

 @ 21世紀型内航海運の目指すべき方向性
 1) 内航海運は、我が国物流の41%を担い、とりわけ鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資の輸送の8割を占めるとともに、モーダルシフト推進の中心的役割を果たしている。
 内航海運のこうした「我が国物流の大動脈」としての役割については、21世紀においても欠くことのできないものである。

 2) また、内航海運は我が国の基幹的輸送モードとして、物流効率化、環境保全等、21世紀を迎えた我が国経済社会の様々な要請に積極的に貢献していくことが必要である。

 3) このため、21世紀型内航海運においては、「他の輸送モードとの連携を図りつつ、より効率的で環境に優しい輸送サービスの安定的な提供」を目指すことが適当である。

 A 21世紀型内航海運構築のためのアプローチ
 1) 今後の我が国経済の状況は、かつてのような大幅な経済成長は望めず安定的な成長を目指さざるを得ないものと予想される(運輸政策審議会総合部会長期輸送需要予測小委員会報告書〈平成12年6月〉においては、内航海運の1995年から2010年までの輸送量は横這 いから減少と予測)

 2) こうした経済情勢の下、今後、21世紀型内航海運が安定的な輸送量を確保し、輸送需要の喚起を図るためには、一層の物流効率化とともに静脈物流等新たな輸送ニーズの開拓に取り組んでいくことが重要である。

 3) このためには、内航海運の市場構造をより競争的なものへと転換し、事業意欲のある事業者の新規参入、規模拡大等の多様な事業活動がより自由かつ健全に展開されることが不可欠である。

 加えて、今後の物流システム全体の高度化・効率化を図る観点からは、トラック、港湾運送等他の物流関係部門と十分な連携を図るとともに、これらの取り組みも促していくことが必要である。

 4) こうした事業者の活力ある事業展開を通じてはじめて、内航海運の真の活性化が図られるとともに、21世紀の様々な時代の要請に的確に対応した低コストで質の高い輸送サービスの円滑な提供が図られることとなるものと考える。

(2) 内航海運業界における今後の取り組みの方向性
 内航海運業界における今後の取り組みの方向性については、以下のとおり整理するべきではないか。

 @ オペレーター事業者の活性化
 1) 船調事業を通じた船腹の需給調整を目的とした参入規制の強化等が行われた昭和40年代はじめの事業者構造は、10,000事業者近い小規模オペレーターの乱立により、過当競争の発生、安定輸送の阻害等が懸念される状況であった。
 しかしながら、我が国経済社会の発展とこれに伴う内航海運の近代化の結果、現在においては、砂利船、曳船等を除く一般的な内航輸送に係るオペレーター(許可)事業者は350事業者であり、このうち売上50億円以上の50事業者が内航海運業の売上全体の3割、運航船舶の5割を占めるに至っている。

 2) このようなオペレーター事業者においては、競争制限的な内航海運の市場構造により特定の荷主への系列化が進むとともに、オペレーター事業者間において元請、1次、2次等のような多重構造が形成されている。
 オペレーター事業者は、実運送事業者として今後の物流効率化、環境保全等を担う21世紀型内航海運の中心的役割を果たしていく必要があることに鑑みれば、内航海運の市場構造をより競争的なものとし、オーナーも含む全ての事業意欲のある事業者による多様な事業活動を促進することを通じて、こうした事業構造の弊害の解消に取り組んでいくことが必要である。

 3) 加えて、モーダルシフト推進の観点からは、ドア・トゥ・ドアの一貫輸送サービスの提供等の荷主ニーズへの柔軟かつ的確な対応を図るため、トラック事業者等他の物流事業者との提携等に取り組んでいくことも必要である。

 A オーナー事業者の経営の高度化
 1) オーナー(許可)事業者数は、昭和44年度末に9,000事業者の規模であったが、平成12年度末では3,000事業者と大幅に減少してきている。また、かつてオーナー事業者の多数を占めるとされたいわゆる「生業的オーナー」と見込まれる小規模事業者(300総トン未 満の船舶を1隻所有する事業者)数は、昭和47年度末の7,000事業者から、平成12年度末では1,300事業者へと、この約30年間でその8割、5,700事業者が減少している等、オーナー 事業者の規模構成は大型化している。

 2) このため、今後のオーナー事業者による経営については、これまでのように一律に規模の拡大に重点を置いた集約・協業化を進めるのではなく、むしろ、個々の事業者の経営状況に応じて、例えば、事業意欲のあるオーナー事業者が共同で船舶管理会社を設立する等具体的な合理化・経営革新に資する取り組みを積極的に展開していくことが必要である。

 3) また、内航海運業界では船調事業が長期にわたり実施されてきたことから、特にオーナー事業者の経営は、保有船舶の資産価値に依存した形で行われていることが少なくない。このため、オーナー事業者は過少資本にもかかわらず、多額の投資を行いその回収に長期間を要してきたという実態があるが、今後のオーナー事業については、適切な輸送需要の見通し等に基づく船舶収支に経営の主眼を置いて行われることが必要である。

(3) 内航海運行政に置ける今後の取り組みの方向性
 内航海運行政における今後裏取り組みの方向性は、以下のとおり整理するべきではないか。

 @ 基本的視点
 従来の内航海運行政は、船調事業の実施、内航海運業法等規制の強化等を通じて、中小零細性の解消、業界秩序の維持等内航海運事業の安定的な発達を図ることに重点が置かれていた。
 しかしながら、今後は、船調事業の解消をはじめとする内航海運を取り巻く様々な環境変化を踏まえ、高度かつ全体効率的な物流システムの構築の観点から、コストを含む輸送サービスの質の高度化や革新的サービスの創出、安全かつ安定的な輸送の確保を図ることに重点を置いた行政を展開していくことが必要であり、行政の役割はそのためのソフト・ハード面にわたる環境整備に取り組むことである。
 また、社会的規制については、公正かつ競争的な市場環境の整備を図る観点から、技術革新や社会の経済情勢の変化を踏まえ、所期の目的に照らし妥当なものであるか否かを適時適切に見直す必要がある。
 具体的には、以下の2つの方向性で取り組んでいくことが必要である。

 
T 健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備
 U より効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの提供の支援

 A 取り組みの具体化に際しての留意点
 上記@の方向性で取り組みの具体化を図るに当たっては、以下の点に留意することが必要である。

 1) 海運、船舶及び船員のそれぞれの分野における内航海運施策の見直しを行い、総合的行政の展開を図ること。

 2) それぞれの取り組み内容について、措置期限等その実施スケジュールの明確化を図ること。

 3) 海事関係者のみならず、広く国民に対するアカウンタビリティ(説明責任)の確保に努めること。