第1回(2001.09.06)
次世代内航海運懇談会・暫定措置事業部会
議事概要


議事

(1) 暫定措置事業の状況等について
(2) 各委員からの意見聴取
(3) その他

議事経過

 
事務局より資料に基づいて暫定措置事業の状況等について説明を行った後、各委員からの意見陳述が行われ、その後、委員による議論を行った。

主な議事の概要

 ・内航海運暫定措置事業については、船腹需給の適正化に一定の効果があると認識しているが、内航海運の競争力強化の観点からは、早期の事業の終了が必要。
 ・荷主企業もリストラを実施しており、競争が厳しい。暫定措置事業は、あくまで内航海運業界の中で自己完結をすべきであり、それに係る負担を荷主等に求めるべきではない。
 ・安定輸送を求めるならば、荷主がコスト保証を行うことも考えるべき。暫定措置事業がなくなれば自由競争となるが、買い叩いても最後はコスト負担をしなくては安定輸送が確保されなくなるのではないか。荷主自らが船舶・船員のコストを管理して合理化に努めることが重要。
 ・暫定措置事業は、当初500億円の所要資金が700億円、さらに来年度要求では900億円の規模と拡大しつづけており、今後の事業の見通しが不明確であるのは問題。
 ・船舶の建造量が低迷しているが、近年の経済情勢により船の採算性が厳しいことが原因であり、今後の船舶建造の資金調達に際しては、船舶収支が重視されるため、場合によっては荷主側の用船保証等の検討も必要。
 ・政策評価の実施にあたっては、暫定措置事業自体の目的がブレるとその結果に影響するので、目的を具体的な数値で提示することが必要。目的を引当資格解消のソフトランディング策と過剰船腹の処理とするだけでよいのかについて検討が必要。
 ・船腹調整事業と暫定措置事業のプログラム評価は、政策の当否について白黒をつけるものではなく、様々な意見を集約して政策のメリット、デメリットを整理するとともに、今後の政策実施への改善点を見いだすためのものである。


暫定措置事業部会の論点について

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 ・暫定措置事業等に関する政策評価の実施

U 暫定措置事業の現状の取り組み
 
1.船齢15年超船舶の取扱い
 2.当面の事業収支(平成15年度以降の納付金及び交付金単価の考え方を含む。)

V 暫定措置事業の今後のあり方
 
1.今後の船舶建造
 2.内航海運の構造改革
 3.良質かつ効率的な物流システムの構築


各委員からの意見


(日本内航海運組合総連合会傘下5組合会長)


内航大型船輸送海運組合会長 吉田啓一氏

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 3年間で約1,000隻(124万トン)減船、一方新規建造船170隻、差し引き830隻減、総船腹量の約10%強が減船。特に、一般貨物船分野では約15%の減船により、船腹需給が大幅に改善され、近い将来には市況は回復に向かう。ただし、内タン部門は依然として船腹過剰。
2)暫定事業の今後のあり方
@今後の船舶建造のあり方
 資金を自己調達できる事業主は全体の1/3位か。運輸施設整備事業団のような公的資金の機関が必要。現事業団の建造方式には問題あり。
 a)事業団のコスト削減が必要(技術部門の廃止)。
 b)資金調達:船主が20〜30%、事業団が80〜70%とし、船種によって率を区分する。
 c)融資条件:事業主の体力にもよるが、傭船社(荷主も含む)との契約内容、本船の採算性を重視。
A内航海運の構造改革
 内航海運業界は5,500社の中小事業社があり、個々の経営基盤を強化し、自由な競争の土俵で戦える企業体質を構築することが必要。
 その為には、
 a)船腹需給の適正化による海運市況の構築。
 b)集約化・協業化の促進。
B良質かつ効率的な物流システムの構築
 輸送の効率化の一つとして、RORO化の推進。

 
a)定時配送が必要な貨物。
 b)短時間配送を必要とする貨物。
 これらがシャーシ化され、RORO船で輸送されている。今後、この傾向がさらに拡大されるかというと、鉄道、フェリーとの競合を考えれば、必ずしもそうとは言えない。
 さらに今後、モーダルシフトを推進するためには、
 @RORO船の500q制限/4港の緩和

 A小型RORO船の建造条件の緩和
 B埠頭公社を民営化し、料金はマーケットレートとする
 C港湾の整備:輸送にマッチした港湾施設の整備
 D航路制限の緩和:高速船(20〜30ノット)にあったルールへの見直し
 E船員不足対策の一環として、定員削減のための省力化に対する助成
 F自由償却制度の導入および税制(固定資産税、石油税、登録税など)の見直し
 G環境対策(Nox、SOx、CO2の削減)に対する助成




全国内航輸送海運組合会長 三井田樹彦氏

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 本事業は船腹調整事業を解消するという、海造審答申を実行することにより喪失する引当資格の財産的価値に対する補償を目的とし、併せて過剰船腹対策として実施されているものである。
 本実施により引当資格の一挙喪失による事業者の倒産等の混乱が回避され、中小事業者の転廃業等の構造改善が円滑に進んでいる。また、事業開始から平成13年5月期までに1,025隻、113万対象トン、交付額804億円が認定され、これまでに901隻、99万対象トンが解 撤等を完了し、716億円が交付された。これに共同事業による買上げの3万対象トンを加えると、本事業開始時の船腹量700万トンの15%に当たり、過剰船腹の解消に大きな効果が あった。しかしながら、これだけの船腹を処理しても、なお運賃水準が低迷しているの は、不況が一段と深刻化して荷動きが減少していること、更に荷主の合併や輸送の合理化が進んだためと考えられる。船腹の需給バランスの適正化には、なお一層の過剰船腹の処理が必要であり、資金面での国の支援をお願いするものである。なお、交付金の原資として借り入れた資金は建造納付金で返済することとなっており、収支相償うまで継続することが必要である。

V 暫定措置事業の今後のあり方
(1)今後の船舶建造のあり方について
 @船齢14年以上の老齢船が隻数で3,086隻と45%を占めており、安全・安定輸送を確保 するため、代替建造の推進が必要である。
 A引当資格を担保とした従来のファイナンスは不可能となったので、中小事業者が一般貨物船の建造に利用できる、無担保で長期・低利の共有建造制度は必要不可欠である。
 B過去には引当資格に依存した投機的建造がみられたが、今後は自己責任のもとに確実な建造計画をたてることが必要である。
(2)内航海運の構造改革について

 
@適正な船腹量の維持
 運賃は需給で決まるとの理論に対応し、適正運賃を収受するためには船種ごとに適正な船腹量を維持し、過剰船腹を防止することが必要どある。(直接の船腹調整はできないので建造納付金・建造納付金免除制度の維持)
 A零細事業者の集約・協業化
 貸渡許可事業者3,024社のうち、個人が597者(19%)、資本金1,000万円未満が1,032社(34%)で中小零細事業者が多く、建造資金の調達が困難(個人は事業団の共有建造制度の対象外)であり、船員の確保も困難であるので、事業者の集約・協業化が必要である。
 B若年船員の確保
 船員の高齢化が進み若年船員の確保が困難であるので、内航総連の若年船員確保対策を推進することが必要である。なお、現在、海事局船員部の船員職業紹介等研究会ワーキンググループの審議に注目している。
 C建造および修繕等の技術支援
 中小事業者に対する船体の使用年数の延命化対策として、メンテナンスの技術的支援が必要である。
(3)良質かつ効率的な物流システムの構築について
 @輸送の平準化 A船舶の大型化 B航海回転率の向上 C積荷積載率の向上、適貨適船の提供 D空船回航の回避 E船腹の相互融通 F荷主・船社間および船社間相互における緊密な情報の交換と提携の推進
 このほかに、少人数で運航できる近代化船、省力化船を開発し、乗組員定数の見直しを検討すべきである。




全国海運組合連合会会長 四宮  勲氏

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 官界における規制緩和政策の推進と、荷主業界の相次ぐ合従連衡に伴う物流効率化推進による海上輸送需要の減少により、船腹過剰状況にあった当時、暫定措置事業の導入により、交付金を交付して船舶の解撤等を促進したことが過剰船腹解消の為の有効な手段となったことは、評価できる。しかし、一方において、交付金単価について平成14年度までの5か年間のみの表示方法 を採ったことが、同事業そのものが5年間で終了してしまうのではないかとの誤解を与 え、組合員事業者のみならず、船舶に融資している市中金融機関の内航海運業界に対する不安を煽り、事業者の意に反し、債権処理と相まって船舶の処分と同時に、廃業に追い込まれるケースも多々見受けられ、共生・共存の思想が崩壊した。

V 暫定措置事業の今後のあり方
 @『市場原理の活用』『自己責任の原則』ということからすれば、「コスト+適正利 潤」が保証されなければ船舶を建造する必要はないが、地球環境に対応し、かつ絶えず安定・安全運航の確保を求められるわが業界としては、老朽船をまん延させることを看過することはできず、常に最新鋭の設備を有する近代化船への代替建造を促進することが業界の使命でもあり、また、事業者の宿命ともなっている。これが世界の商船の中で、日本が船齢の若い船隊を確保することを可能とし、誇りともなっている。しかし、その負担を海運事業者のみに押しつけ、コストすら割り込むような現今の運賃・用船料では到底維持できずに、撤退を余儀なくされることとなり、荷主業界の責任は大きいと言わざるを得ない。換言すれば、「コスト+適正利潤」さえ保証されれば代替建造は促進され、造船業界、ひいては地域経済の活性化にもつながることとなる。
 Aまた、従来ややもすると内航海運は外部産業の主導により、市場形成されてきているが、ITを充実活用し、船舶・貨物・運賃・用船料情報等を積極的に開示していくことにより、内航海運業界自身での市場形成が可能となり、ひいては運送業、貸渡業の凝縮文も不要となることによって構造改革が進む。
 B効率的な物流システム構築のためには、内航海運のみならず、港湾の整備、休日・時間外等の積み卸し、夜間入港船型制限等の緩和、等々海事法令の見直しも必要であるが、将来的には陸運/海運/陸運の一貫輸送が可能となる企業体質に変身する努力が求められる。




全日本内航船主海運組合会長 小谷 道彦氏

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 移行した当時は様々な意見があったが、現状は高く評価している。当初は500億円あれば資金回転可能であろうと考えられていたが、不況長期化で原資が不足し、200億円を追加手当てしたにも関わらず、なお不足の状況にある。これは、不況の影響であり、業界の責任範囲を超えたものと言える。
 ある意味では、内航業界は3年前から構造改革に取り組んでおり、その完結まで是非政府の支援が必要であると考えている。

V 暫定措置事業の今後のあり方
 @今後の船舶建造のあり方について
 現状の運賃・用船料市況は、コスト割れの状況であり、建造云々以前であるが、今後ということで言えば、民間の金融機関のほとんど期待できない。そこで、運輸施設整備事業団の存続が必要であると考えている。存続の上は、現状の貸付・共有条件をもう少し弾力的に、事業者の経営状態から選択できるメニューに広げてもらうことを要望する。船舶の共有方式も、一船一社に限ることなく、オーナー同士、オペ・オーナー共有、また、オペの保証も長期保証、短期保証も可能とし、オーナー本来のあり方でもある短期保証によ り、転売によるキャピタルゲインを得る方法も考慮に入れるべきと思われる。
 A内航海運の構造改革の点では、協業化の必要を強調するものである。
 平成13年版海事レポートでは3月31日現在で内航海運事業者合計が5,363事業者で、そのうちいわゆる「一杯船主」と呼ばれる許可事業者1,893社と届出事業者1,608社で、全体の約7割を占めている。
 協業化が叫ばれて久しいが、総論は賛成するが、各論では地方オーナーは自分のことになると、なかなか協業化には踏み切れないのが実情だ。内航総連の制度としては、従来から転廃業と並べて集約・合併にも給付金を給付する規定を設けているが、最高で150万円 の頭打ちではインセンティブにもならない。
 全内船の会長としては、メリットある協業化、言い換えれば、協業化すればこれだけメリットがあるといった制度を、内航総連の活動の中に設けてもらいたいし、検討してもらいたいと思っている。
 協業化する前に、各社が借入金などを返済し、赤字を精算して身軽になって、初めて協業化も進むと思う。内航総連の経営合理化ワーキンググループで少し知恵を絞ってもらい、現実的な対策作りを検討してみる価値はあると思う。商法改正や税制改正も合併・分割・現物出資については、現実的な改正が行われており、対応しやすくなっている。
 また、少し見方を変えてみると、いわゆる外注に出す方式もあるのではないか。内航海運業界は、従来から1社完結主義経営をとってきたが、他の業界ではすでに一般化しているアウトソーシングによる分業・経費節減の方法だ。海運業の業務の中で、例えば船舶の保船管理業務や船員の配乗業務を外注に出すことも可能なのでと思う。船員関係では、国土交通省の船員職業紹介等研究会で検討の結果、10月に事務局案が提示されると聞いている。船員の共同雇用などが前進することを期待している。
 B良質かつ効率的な物流システムの構築について
 全内船の平成13年度の事業計画にIT化の推進・充実を謳っている。平成11年始めごろから、全内船所属の運航委託船の稼働が悪かったので、運航効率の向上を目的として、オーナーサイドから船舶のポジションを情報提供しようと考えて、「船舶動静(運航状況)管理システム」を立ち上げた。
 本船の船舶要目を少し詳しく記載したリストを画面で見ることができ、運航状況をリアル・タイムにパソコン画面の日本周辺海図上で把握できるシステムだ。最近では貨物船のタイト感から、本システムでの商談成立例はないが、とりあえずビジネスモデルソフトとして、昨年10月に「用船仲介方法及びシステム」名で特許の共同出願している。
 このソフトは、オペレーションする船舶が多ければ多いほど、効率的に活用できるの で、大手オペレーターや荷主サイドでの自社内活用も可能である。いずれ、船腹がタイトになった時には、必要性が発揮されるものと考えている。全内船では、せっかくのソフトでもあり、所属船舶の全船登録を行い、組合費管理から船種別管理などに利用したり、組合員が所有船をパソコン画面の海図上にプロットで見ることができるよう、有効利用のためのIT化を推進している。



全国内航タンカー海運組合会長 立石 信義氏

T 暫定措置事業のこれまでの評価
 結果論ではあるが、痛みを先延ばしにして、抜き差しならぬ状況になってしまったという意味で、昨今の不良債権処理に似た失敗と言わざるを得ない。
 この事業は、建て前として生産調整カルテルを廃止し、営業権の補償という激変緩和措置をとり、設備の共同廃棄による不況対策を実行し、新規参入者を制限して業界の安定を図り、しかも、国のいわゆる真水は一滴も使わないという、一石五鳥の見事なプランであった。
 日本経済が景気循環で繰り返しながら、順調に推移していれば、当初の見込みどおり必要資金も500億円程度で済み、後世に語り継がれる大成功を収めたと思われる。
 ところが、石油業界に始まった国際競争力を失うという構造不況は、その後、鉄鋼、セメントなどの貨物荷主に波及し、その結果、船舶の新造意欲は極端に低下し、資金面から事業の存続も危ぶまれる状況になってしまった。

U 暫定措置事業の今後のあり方
 現在、事業者は全てこの事業の存続を前提として経営を行い、かつ計画しているので、具体的に決定済みで実行中の方針に限り、例え事業者が痛みを分かち合っても絶対に実行しなければならない。
 しかし、失敗の痛みを全て事業者に負担させるのは、社会的公正を欠く。国も荷主も何らかの形で応分の痛みを分かち合うべきであろう。
 今後の船舶建造のあり方、内航海運の構造改革は、外航海運に見られる市場原理の導入による活性化以外に、とるべき道が見当たらないと思う。
 現在のシステムの下での運賃・用船料についての「泣き」や「運動」では、適正運賃はおろか、船腹の需給を反映した運賃の取得すら不可能であり、良質かつ効率的な物流システムの構築は望むべくもない。
 この際、現在の内航二法による規制の緩和、ないし撤廃を是非ご検討願いたい。